小説の予告編を書いてみました


窓の外を見るようにしながら、武宮はつぶやいた。
「偉い連中はとっとと穴倉にもぐりこんでがたがた震えてやがる」
安藤は黙ったまま自らの上官、かつて窓際に追いやられていた男の
背中を見つめていた。
「そのあとはもう大変だ。偉い連中が仕事しないんだから代わりに
 誰かが仕事をしないといかん。めんどくせぇ
それは50を超えた男の言葉遣いじゃないだろ、と安藤は思った。
「まぁこっちにとっちゃそれも好都合っちゃ好都合だ」
「好都合…ですか」
振り返りながら武宮が半笑いで言った。
「でなきゃ50メガトン水爆20発を打ち上げるなんて出来ると思うか?」
「…ある意味核戦争起きますよね、それだけで」
「ああ。だが…いまさら戦争しても後2日で人類滅亡だ」
半笑いの顔から真顔に戻って武宮はしばし黙りこんだ。
防衛庁の施設内、もう冬の日差しはずいぶんと弱くなっていたが、
暖房の温度の制限なんてのはこの状況になっても解除されなかった
おかげで、ずいぶんと部屋の中はお寒い状態だった。
「あのバカどもが失敗したらな」
武宮はそういった瞬間、そういやバカどもの中には俺も含まれてるんだなと
笑顔を取り戻したが、これからのことを思うとどうしても不安になって
しまう自分がいて、とりあえず再び窓の外を見るふりをすることにした。

ボイスメッセンジャーでロシアのバイコヌール基地に一人の男が連絡を
取ろうとしていたところに、タイミングよくバイコヌールのほうから連絡が入ってきた。
「よーヤンキー、そっちの様子はどうよ?」
「きわめて順調。『ブリューナク』は月軌道を順調に加速中だってさ」
「あとはあの3匹がくたばらねーことを祈るのみだな」
「いやそれより、全弾きっちりぶち込んでもらわねーとな。あのくそったれ
 の彗星のケツの穴に」
「そりゃそうだ」
モニターを見ながらロバートはぼやく。
「…忌々しいっちゃ忌々しいが、こいつが来なけりゃ俺たちここにいねーな」
「そりゃいえてる。優秀なやつはとっととシェルター送りだしよ」
マイクの返しの「シェルター送り」という表現がどうにもおかしかったらしく
ヒューストンに笑いが走る。
「つまりここに集まったのは中途半端なダメ人間ってか」
「おいおいなんかそっちおもしろそーだな。何の話してるんだ」
「俺たちゃダメ人間って話」
アレックスからそれを聞いたとたん、バイコヌールにも笑いが感染する。
「おい聴いたか、今のNASAはダメ人間だけで運営してるんだとよ」
「何言ってやがる、そりゃこっちのことだろ」
「バカ言え、いまやお偉いさんなんて地球のどこにもいねぇっての。
 バカが曲がりなりにも国家運営してるのが現状」
アレックスはそんな仲間のバカ話を聞きながらモニターに眼をやった。
月の裏側のある範囲に宇宙船が存在する間は交信は出来ない。
交信再開まで、あと8分。

バイコヌールからは最多の10発の核弾頭が衛星軌道上に射出された。
かつてだったら一発で核戦争の状況だが、あと14日で滅亡するはずの人類に
とってはこれが最後の切り札だった。
ヒューストンから6発、フランスから2発、そして中国から2発の巨大核弾頭
が発射され、衛星上でロケットと合流した。

このような計画がすんなりいったのは、人類滅亡というのが極めて現実味を
帯びていたという点が大きかろう。

パイロットにはロシア人、アメリカ人、日本人の3人が選ばれていた。
こんな人種ばらばらで大丈夫か、などといった話もあったが、彼らの
能力を考えるとそれぞれ欠かせないメンバーだった。

アフリカ系アメリカンであるボブ・ウィルソンは操船能力を買われ、
サンクトペテルブルク出身のミルコ・ボラギノフは電子工学の腕では
志願パイロットの中ではトップだった。
そして元自衛隊の砲兵、石原貫之(かんじ)の砲撃戦能力もまた、
どうしても必要なものだった。

彼らは人種を超えた「ある種の人間」だった。
そのことが自然と友情につながっていった。
この1年の間に彼らはすっかり打ち解けていたといっていい。
いや、もとより打ち解けることは出来るはずだったのだ。
なぜなら彼らは真性のヲタクだったからだ。

そのきわめて重度のヲタク三人は糞狭いコクピットの中でGに耐えていた。
「ううううううぅぅぅ…」
「をおををををおおをぉ…」
闇が宇宙船を包む。月の裏側を時速10万キロ以上の速度にまで
加速した宇宙船がつきすすむ。彼らはかつてのアポロ宇宙船が地球を発射する
際のそれを上回るGの中でひたすらうめいていた。
それでも対Gスーツの進歩のおかげで気絶だけはしなくてすみそうではあるが。
(いっそ…気絶させろ…)
石原は心の中でそう思った。到着するまで寝かせてくれ。
何でこんなところでこんなことをしているのか…走馬灯のようにこの
数年の記憶がよみがえる。

…自衛体内でのトラブル、退職、あの日は最悪だったな…おまわりさん
ごめんなさい
…会社、武宮からの依頼、渡米、訓練、暴動、ロケット…
と、急に加速が終わった。
それと同時に白い巨大な球体が窓の外を被い尽くさんばかりに広がって見えた。

ボブがつぶやく。
「カンジ、ミルコ、見てみろよ…どうみても彗○帝国だぜ」
「びっくりだな。まさか本当に地球を狙う○星帝国が出現とは」
ミルコは驚くそぶりを見せずそんなことをいう。
グリーンのランプが点滅し、ヒューストンからのアラートがなる。
「ブリューナク、応答せよ、オーバー?」
「ヒューストン、こちらブリューナク。○星帝国を確認した、オーバー?」
「彗○帝国か…現在彗星と貴艦の距離は1万キロだ。貴艦は1000キロまで
 彗星に接近後、水爆による砲撃を開始、オーバー?」
「どうせならヤ○トとでも呼んでもらいたいところだな」
石原はかるくぼやいた。
「ラーカ○ラムでもいいけどな。どっちも著作権的にアウトだろうけど」
「うるせー糞ヲタども、てめぇらはとっととそのくそったれナンシーのケツに
 デカブツぶち込んでとっとと戻って来りゃいいっての、オーバー?」
「こちらキモヲタ、かましてやっから約束のDVD忘れんなよ、オーバー?」
「りょーかい、こんな時までDVDかよ。お前らバカだ。だが最高のバカだよ!」

その頃NASAではもう一つのプロジェクトが暗躍しつつあった。
アメリカYahooや4ch、日本2ch、韓国ネイバーなどといったの掲示板群の
参加者に、隕石軌道計算のためのグリッドを利用したシステムへの参加依頼を
していたのだ。
すでに1000万を超えるマシンがうなりをあげて隕石を待ち構えていた。
彼らへの報酬は「人類滅亡回避の可能性」と「回線の空きを利用しての実況」。
NASAはがんがん情報を流して彼らと最後(になるかもしれない)の祭りを
提供する代わりにCPU時間を得ることにしたのだ。
そのための掲示板の名が何故か「NASAchannnel」だったりする。

「いいんですか?」
「何が?」
NASAの最高責任者であるディビット・ハッブルポフに部下が不安そうに聞いた。
「何がって…いまさら言ってもしょうがないですが、こんな無理やりなプロジェクト
 成功するととてもじゃないけど思えません」
「それこそいまさら言ってもしょうがねーだろ」
ディビッドは不機嫌そうに持っていた万年筆を机でこんこんやる。
彼もまた、NASAの最高責任者になぜかなっていた口だった。
「それにだ」
「それに?」
こんなときぐらいあの連中こき使ってやらねーと俺の気がすまねぇ
「あんた無茶苦茶だよ」
それを聞いたディビッドはなぜか笑みを浮かべた。
「それ言うならお前、このプロジェクト参加者一人残らず無茶苦茶だ」

「NASAおもすれー!」
「なんか日本とか韓国とかの参加者数多すぎね?」
「いんじゃね?そのための集約サーバ用意してるって書いてるし」
「とにかく祭りだろこりゃ!お前らもっと参加しろ!」
「ていうか中国の参加者少ねぇ!参加呼びかけて来い!」
「エロ画像とNASAのURL貼って応援依頼する?」
「参加する!もっと参加する!」
ネットの住人たちはNASAの煽りに全力で乗っていた。
そしてその流れは、人種民族関係なく広まっていった。

IT企業では社内のマシンをグリッドラインに乗せる作業、また
ネットワーク企業ではネットワーク整備作業などがえんえん続いていた。
「地球終末になるかもしれないのになにやってるんだ俺…」
「がたがた抜かすな!俺たちがここで踏ん張れば地球は救われるかもしれんのだぞ!」

元親方日の丸、N○Tのビルの中で二人の男がぶつくさ言いながら作業している。

「ところで、俺らの給料、出るんですかね?」
「出るだろ。地球が滅亡しなかったら
「…なんかむちゃくちゃだよ、もう」
谷口はまだ若いのか、どうしても不平がもれる。
「とかなんとかいってるが、お前もこの祭り楽しんでるだろ?」
「…ええそりゃまぁ。でなきゃやってられねぇっすよ」
「だったらお前も俺も宇宙のあいつらと同様、大バカってわけだ」
「それってけなしてるんすか?」
「んなわきゃねーだろ!最高のほめ言葉だ。こんな事態になってなお
 あきらめない、俺たちもネットの連中もNASAの連中も…」
坂上はそこで空を見上げるようにして、そのあと谷口に向き直り笑顔で言った。
「もちろん、宇宙の大バカ野郎三匹も最後の最後まであきらめないはずだ」
さらにこう付け足した。
「あきらめてるのは穴の中のつまんねー自称お偉方だけだろ」

いまや数千万とも数億ともいう人間が、バカになっていた。
グリッド用マシンをセッティングするバイトのあんちゃんも、そのバイトに
おにぎり売りに来たおねぇちゃんも、バスや電車の運転手さんも時々空を
見上げては再び自らの仕事に戻り、休み時間にはネットにアクセスしたり仲間に
状況を聞いたりしていた。
バカかもしれない、いやむしろバカしか残っていない人類は、今何故か
不思議と心を一つにしようとしていた。
2012年12月20日、人類は彗○帝国に最後の戦いを挑む。


 


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